刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 1113

乙:The tolling of the iron bell

 

出典:Pink Floyd – Time Lyrics | Genius Lyrics

 

感想:古いからか歌詞が真面目な気がした。

 

今日の問題は2問で、予備試験平成23年刑法第1問2と3です。

 

 2.甲は,散歩中,仲の悪かった乙から大型犬をけしかけられたので,犬から逃げようとして,偶然その場を通り掛かった丙を突き飛ばして走り去った。甲の行為により,丙は転倒して全治約1週間を要する足首捻挫の傷害を負った。この場合,甲には正当防衛が成立する。
3.甲は,乙ら数名の男によって監禁されたが,監禁されて2週間後,たまたま見張りが乙一人になったので,監禁場所から脱出するため,乙の顔面を1回殴打して乙がひるんだ隙にそこから逃げた。この場合,甲には正当防衛が成立する。

 

甲先生、よろしくお願いします!

 

甲:2について

 

「正当防衛として許容されるのは,侵害者の法益を侵害する場合に限られる。侵害者以外の第三者の法益を侵害した場合には,正当防衛としては許容されない」

 

山口厚『刑法』69頁

 

 

3について、刑法36条1項は

 

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」

 

と、規定しています。

 

最判昭和46年11月16日は

 

「 刑法三六条にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近
に押し迫つていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものである
としても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。これを本
件についてみると、被告人はCと口論の末いつたん止宿先の旅館を立ち退いたが、
同人にあやまつて仲直りをしようと思い、旅館に戻つてきたところ、Cは被告人に対し、「D、われはまたきたのか。」などとからみ、立ち上がりざま手拳で二回ぐ
らい被告人の顔面を殴打し、後退する被告人に更に立ち向かつたことは原判決も認
めているところであり、その際Cは被告人に対し、加療一〇日間を要する顔面挫傷
および右結膜下出血の傷害を負わせたうえ、更に殴りかかつたものであることが記
録上うかがわれるから、もしそうであるとすれば、このCの加害行為が被告人の身
体にとつて「急迫不正ノ侵害」にあたることはいうまでもない。
 原判決は、前記のように、「被告人が旅館を出ていつた前記経緯からすると、若
し被告人が再び旅館に戻つてくるようなことがあると、必ずや被害者との間にひと
悶着があり、場合によつては被害者から手荒な仕打ちをうけることがあるかもしれ
ない位のことは、十分に予測されたことであり、被告人としてもそのことを覚悟し
たうえで、酒の勢いにのり、旅館に戻つたものと考えられるので、たとえ被害者か
ら立上りざま手拳で殴打されるということがあり、その後被害者が被告人に向つて
ゆく体勢をとることがあつたとしても、そのことは被告人の全く予期しないことで
はなかつたのであり、その他証拠によつて認められるその殴打がなされる直前に、
扇風機のことなどで、旅館の若主人と被害者との間にはげしい言葉のやりとりがか
わされていて、その殴打が全く意表をついてなされたというものではなかつたこと」
をCの侵害行為につき急迫性が認められない有力な理由としている。右判示中、被
告人が右のようにCから手荒な仕打ちを受けるかもしれないことを覚悟のうえで戻
つたとか、殴打される直前に扇風機のことなどで旅館の若主人(B〔五四才〕を指
しているものと認められる。)とCとの間にはげしい言葉のやりとりがかわされて
いたとの部分は、記録中の全証拠に照らし必ずしも首肯しがたいが、かりにそのよ
うな事実関係があり、Cの侵害行為が被告人にとつてある程度予期されていたもの
であつたとしても、そのことからただちに右侵害が急迫性を失うものと解すべきで
ないことは、前に説示したとおりである。
更に、原判決は、右の点に加えて「被告人本人がその気になりさえすれば、前記
広間の四周にある障子を押し倒してでも脱出することができる状況にあつたこと、
近くの帳場には泊り客が一人おり、またその近くに旅館の若主人もいて、救いを求
めることもできたことや、被害者のなした前記殴打の態様、回数などの点をも総合、
勘案すると、被害者による法益の侵害が切迫しており、急迫性があつたものとは、
とうてい認められない」と判示している。しかし、記録によれば、右判示のように
本件広間(八畳間)の四周に障子があつたのではなく、北側には帳場との間に板の
開き戸があつただけであり、東側には廊下との間に四枚の唐紙、南側には二枚のガ
ラス障子があるので、以上の北、東、南三方はともかく出入りが可能であるが、被
告人がCと向き合つたまま後退し、いわば追いつめられた地点である西側には、ガ
ラス障子をへだてて当時物置となつていた廊下があり、ここに衣類、スーツケ―ス
等の物品がうず高く積まれていたため、とうてい「脱出することができる状況」で
はなかつたこと、近くの帳場(四畳半)にはたしかに「泊り客の一人」であるE(
五一才)がいたが、同人はC、被告人両名と知り合いの仲でありながら、眼前でC
が被告人を殴るのを制止しようともしなかつたこと、まだ、右帳場と勝手場との境
付近に「旅館の若主人」である前記Bもいたが、女性である同人が荒つぽいCを制
して被告人を助けることを期待するのは困難であつたことがうかがわれるから、原
判決の前記判示中、被告人が脱出できる状況にあつたとか、近くの者に救いを求め
ることもできたとの部分は、いずれも首肯しがたいが、かりにそのような事実関係
であつたとしても、法益に対する侵害を避けるため他にとるべき方法があつたかど
うかは、防衛行為としてやむをえないものであるかどうかの問題であり、侵害が「
急迫」であるかどうかの問題ではない。」

 

と、判示しています。

 

 

したがって、上記記述は、2が誤りで、3が正しいです。