刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 2157

乙:You punched a hole in your wall

出典:https://genius.com/Carr-sarasota-lyrics

アルクによると、punch a holeは、穴を開ける、という意味です。


今日の問題は、予備試験令和元年刑法第1問3と5です。

被害者の承諾に関する(中略)
3.甲は,乙との不倫関係を清算しようと考え,真実は,乙と心中するつもりはないにもかかわらず,乙に対し,「あの世で一緒になろう。私も君の後を追って死ぬから。」と言って心中を持ちかけ,その旨誤信してこれを承諾した乙に毒薬を手渡したところ,乙がそれを飲んで死亡し
た。この場合,甲には,自殺関与罪が成立する。
5.甲は,自らが刑務官を務める刑務所で受刑中の成人女性乙と恋愛関係になり,乙の承諾を得
て,勤務中,同刑務所内において,乙と性交した。この場合,甲には,特別公務員暴行陵虐罪
が成立する。

甲先生、よろしくお願いします!


甲:3について、刑法202条は

「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。」

と、規定しています。

最判昭和33年11月21日は

「原判決の意図するところは、被害者の意思に重大な瑕疵がある場合においては、それが被害者の能力に関するものであると、はたまた犯人の欺罔による錯誤に基くものであるとを問わず、要するに被害者の自由な真意に基かない場合は刑法二〇二条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られないとの見解の下に、本件被告人の所為を殺人罪に問擬するに当り如上判例を参照として掲記したものというべく、そしてこの点に関する原判断は正当であつて、何ら判例に違反する判断あるものということはできない。」

と、判示しています。


5について、東京高判平成15年1月29日は

「本罪の主体である「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」(以下「看守者等」という。)は、被拘禁者を実力的に支配する関係に立つものであって、その職務の性質上、被拘禁者に対して職務違反行為がなされるおそれがあることから、本罪は、このような看守者等の公務執行の適正を保持するため、看守者等が、一般的、類型的にみて、前記のような関係にある被拘禁者に対し、精神的又は肉体的苦痛を与えると考えられる行為(看守者等が被拘禁者を姦淫する行為[性交]がこれに含まれることは明らかである。)に及んだ場合を処罰する趣旨であって、現実にその相手方が承諾したか否か、精神的又は肉体的苦痛を被ったか否かを問わないものと解するのが相当である。すなわち、前記のような看守者等の立場に照らすと、看守者等が、その実力的支配下にある被拘禁者に対し、前記のような行為に及んだ場合には、当該具体的状況下において、相手方の被拘禁者がこれを承諾しており、精神的又は肉体的苦痛を被らなかったとしても、公務執行の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという観点から見た場合には、本罪の陵虐行為に当たるということができるのであって、本罪の趣旨に照らしたこのような解釈が罪刑法定主義に反するものとはいえない。
 もっとも、所論が指摘するように、本罪にいう陵虐行為の意味については、一般に、暴行以外の方法で精神的又は肉体的苦痛を与える一切の行為をいうとされているが、同時に、本罪の性格に照らして、相手方個人の承諾は本罪の違法性を阻却しないとされており、前記大審院判例も、涜職罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰する本罪において、当該行為が被害者の意思に反するか否かはあえて問うところではないと判示するところである。所論は、前記大審院判例は、現憲法下では先例的意義を有しないと主張するが、前記のとおり、公務員の法的性格が大きく変化した現憲法下でも、汚職の罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰するという本罪の基本的性格に変わりはないと考えられることに照らすと、前記大審院判例の趣旨が合理性を失ったと解することはできない。そして、相手方の承諾がある場合には、当該行為によりその相手方が精神的又は肉体的苦痛を被らない場合も十分に考えられるところ、前記のように相手方の承諾が本罪の成否に何ら影響しないということは、本罪の構成要件的行為の解釈にあたって当然考慮されるべきであり(この点を争う趣旨の所論は採用できない。)、前記のとおり、当該行為が現実に相手方に対して精神的又は肉体的苦痛を与えなかった場合にも、本罪の陵虐行為に該当すると解することが、所論がいうように本罪の予定する犯罪定型を逸脱したものであるとはいえない。」

と、判示しています。


したがって、上記記述は、3が誤りで、5が正しいです。