刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 546

乙:今日の問題は、4問あります。

ア. 一切の公務員の団体交渉権及び争議権を否認する昭和23年政令第201号の合憲性が争われた弘前機関区事件判決(最高裁判所昭和28年4月8日大法廷判決)において,最高裁判所は,憲法第13条の「公共の福祉」論と憲法第15条第2項の「全体の奉仕者」論を根拠にして,公務員の労働基本権の一律禁止を合憲とした。
イ. 公共企業体等労働関係法における争議権規制の合憲性が争われた全逓東京中郵事件判決(最高裁判所昭和41年10月26日大法廷判決)において,最高裁判所は,公務員の労働基本権を原則として保障し,比較衡量論に基づき,その制限が著しく合理性を欠き,立法府の裁量を明らかに逸脱しているか否かにより合憲性を判断するアプローチを採用した。
ウ. 地方公務員法の規制をめぐる都教組事件判決(最高裁判所昭和44年4月2日大法廷判決) と国家公務員法の規制をめぐる全司法仙台事件判決(最高裁判所昭和44年4月2日大法廷判決)において,最高裁判所は,全逓東京中郵事件判決を継承しつつ,さらに,争議行為をあおる等の行為に対する刑事罰について,合憲限定解釈を行った。
エ. 国家公務員法の規制をめぐる全農林警職法事件(最高裁判所昭和48年4月25日大法廷判決)において,最高裁判所は,全逓東京中郵事件判決を変更する旨述べ,「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」論,公務員の勤務条件に関する「財政民主主義」論を根拠にして,公務員の争議行為の一律禁止を合憲とした。


甲先生、よろしくお願いします!

こ、甲先生!?


甲:3月も、ありがとうございました。

乙:憲法28条は

「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」

と、規定しています。


アについて、憲法13条は

「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

同法15条は

「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
○2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
○3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
○4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。」

と、規定しています。

最大判昭和28年4月8日は

「国民の権利はすべて公共の福祉に反しない限りにおいて立法その他の国政の上で最大の尊重をすることを必要とするのであるから、憲法二八条が保障する勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利も公共の福祉のために制限を受けるのは已を得ないところである。殊に国家公務員は、国民全体の奉仕者として(憲法一五条)公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法九六条一項)性質のものであるから、団結権団体交渉権等についても、一般の勤労者とは違つて特別の取扱を受けることがあるのは当然である。従来の労働組合法又は労働関係調整法において非現業官吏が争議行為を禁止され、又警察官等が労働組合結成権を認められなかつたのはこの故である。同じ理由により、本件政令第二〇一号が公務員の争議を禁止したからとて、これを以て憲法二八条に違反するものということはできない。」

と、判示しています。

イについて、最大判昭和41年10月26日は

「労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員やを方公務員も、憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受ける」

「労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない。」

と、判示しています。

ウについて、都教組事件判決は

「昭和四一年一〇月二六日の判決(中略)に示された基本的立場は、本件の判断にあたつても、当然の前提として、維持すべきものと考える。」

「公務員についても、その労働基本権を尊重し保障しようとする憲法上の要請と、公務員については、その職務の公共性にかんがみ、争議行為を禁止すべきものとする要請との二つの相矛盾する要請を、現行法の解釈のうえで、どのように調整すべきかの点にあり、労働基本権尊重の憲法の精神からいつて、争議行為禁止違反に対する制裁、とくに刑事罰をもつてする制裁は、極力限定されるべきであつて、この趣旨は、法律の解釈適用にあたつても、十分尊重されなければならない。
そして、地公法自体は、地方公務員の争議行為そのものは禁止しながら、右禁止に違反して争議行為をした者を処罰の対象とすることなく、争議行為のあおり行為等にかぎつて、これを処罰すべきものとしているのであるが、これらの規定の中にも、すでに前叙の調整的な考え方が現われているということができる。しかし、さらに進んで考えると、争議行為そのものに種々の態様があり、その違法性が認められる場合にも、その強弱に程度の差があるように、あおり行為等にもさまざまの態様があり、その違法性が認められる場合にも、その違法性の程度には強弱さまざまのものがありうる。それにもかかわらず、これらのニユアンスを一切否定して一律にあおり行為等を刑事罰をもつてのぞむ違法性があるものと断定することは許されないというべきである。ことに、争議行為そのものを処罰の対象とすることなく、あおり行為等にかぎつて処罰すべきものとしている地公法六一条四号の趣旨からいつても、争議行為に通常随伴して行なわれる行為のごときは、処罰の対象とされるべきものではない。」


全司法仙台事件判決( 刑集23巻5号685頁)は

「限定的に解釈するかぎり、前示国公法九八条五項はもとより、同法一一〇条一項一七号も、憲法二八条に違反するものということができず、また、憲法の前文、一一条、九七条、一八条に違反するものともいえないことは、当裁判所大法廷の判例(とくに昭和三九年(あ)第二九六号、同四一年一〇月二六日大法廷判決、刑集二〇巻八号九〇一頁、昭和四一年(あ)第四〇一号、同四四年四月二日大法廷判決参照)の趣旨に照らし、明らかである」

「あおり行為等を処罰するには、争議行為そのものが、職員団体の本来の目的を逸脱してなされるとか、暴力その他これに類する不当な圧力を伴うとか、社会通念に反して不当に長期に及ぶなど国民生活に重大な支障を及ぼすとか等違法性の強いものであることのほか、あおり行為等が争議行為に通常随伴するものと認められるものでないことを要するものと解すべきである。というのは、職員の行なう争議行為そのものが処罰の対象とされていないのに、あおり行為等が安易に処罰の対象とされるときは、結局、争議行為参加者の多くが処罰の対象とされることになつて、国公法の建前とする争議行為者不処罰の原則と矛盾することになるからである。」

と、判示しています。

エについて、最大判昭和48年4月25日は

「当裁判所の判決(昭和四一年(あ)第一一二九号同四四年四月二日大法廷判決・別集二三巻五号六八五頁)は、本判決において判示したところに抵触する限度で、変更を免れないものである。」

と、判示しています。


したがって、上記記述は、アとウが正しく、イとエが誤りです。