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しほうちゃれんじ 2759

乙:今日の問題は、令和3年予備試験行政法第17問ウです。

 

行政上の即時強制に関する教員と学生による以下の対話中の次のアからエまでの【 】内の各記述について,法令又は最高裁判所の判例に照らし(中略)

教員:公務員である鉄道公安職員が,鉄道施設に立ち入り,座り込むなどした労働組合員を実力で退去させた事案に関する最高裁判所大法廷判決の多数意見は,当該退去に係る即時強制の適法性を肯定したものと理解されています。多数意見は即時強制の適法性をどのような理由で肯定したのでしょうか。

学生:多数意見は,鉄道公安職員による強制的な退去行為について,(ウ)【危険が切迫する等やむを得ない事情が認められる場合には,法律による明文の根拠がなくても,具体的事情に応じて必要最小限度の強制力を用いることができる】として適法性を肯定しました。

 

甲先生、よろしくお願いします!

こ、甲先生!?

 

甲:And I called the doctor and he said 
There’s nothing wrong

 

出典:https://youtu.be/Xg618pb_hwQ?feature=shared

 

感想:アルクによると、nothing wrong は、全く悪いところがない、などの意味です。

 

乙:最大判昭和48年4月25日は

 

「  つぎに、鉄道公安職員は、鉄道公安職員の職務に関する法律によつて、Aの列車、停車場その他輸送に直接必要な鉄道施設内における犯罪およびAの運輸業務に対する犯罪について捜査の権限をもつものであるが、他面、Aの職員として、その職務の遂行について法令およびAの定める業務上の規程に従わなければならないとされ(日本国有鉄道法三二条一項参照)、かかる業務上の規程の中でも重要な「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達第四六六号)によれば、鉄道公安職員は、(一)施設および車両の特殊警備、(二)旅客公衆の秩序維持、(三)運輸に係る不正行為の防止および調査、(四)荷物事故の防止および調査、(五)その他犯罪の防止、の職務を行なうものとされ(三条)、さらに、鉄道公安職員は、Aの防護の任にあることを自覚して、常に鉄道の安全および鉄道業務の円滑な遂行のために全力を尽くし、これを侵害するものを進んで排除することに努めなければならないとされている(五条)のであつて(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達第一六〇号)二条、四条)、鉄道公安職員が右規程によつてこのような警備的な職務に従事するものであることは、すでに当裁判所昭和三八年(あ)第五一五号同三九年八月二五日第二小法廷決定(裁判集刑事一五二号五八七頁)の認めるところであり、また、かかる職務が公務執行妨害罪の客体たる公務にあたることも、同決定の示すとおりである(日本国有鉄道法三四条一項参照)。このように、地方鉄道と異なり、Aについてとくに鉄道公安職員の制度が設けられているのは、Aが国有鉄道事業特別会計をもつて国の経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営によりこれを発展させ、もつて公共の福祉を増進することを目的として設立され(日本国有鉄道法一条)、鉄道事業その他法定の業務を行なう(同法三条)という高度の公共性を有し、また、その業務がわが国全土に及ぶという広範囲で、かつ複雑膨大な企業体であることによるものである。
 ところで、本件について考察するに、前記のとおり、H駅東てこ扱所二階の信号所に立ち入り、階段にすわり込んだA労働組合員らは、いずれもその勤務から離れ、H駅長等の当局側の警告を無視して、Aの業務運営上重要な施設を占拠し、その管理者の管理を事実上排除したものであるから、このような場合は、鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆が鉄道地内にみだりに立入つた場合にあたるというを妨げず、これに対し、列車の正常かつ安全な運行に責任を有するA当局が、同信号所の管理を回復するため、労働組合員らの退去を促し、さらにはその排除を図りうることは、当然の事理というべきである。
 すなわち、このような場合、鉄道公安職員においては、前記「鉄道公安職員基本規程」所定の職務を行なうA職員、すなわち、鉄道営業法四二条一項所定の当該の鉄道係員に属するものとして、すみやかにAの業務運営上の障害を除去するため、前記信号所に立ち入りあるいは階段にすわり込んだ労働組合員らを退去させることができるものであり、その際には、前述のように、当該の具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いることができるものと解すべきであつて、検察官の所論引用の判例のうち仙台高等裁判所昭和三六年(う)第六一六号同三八年三月二九日判決および東京高等裁判所昭和三九年(う)第二四八七号同四〇年九月一四日判決は、いずれもこの趣旨を判示したものである。そして、鉄道公安職員は、必要最少限度の強制力の行使として、信号所階段、その付近、同所内にいる労働組合員らに対し、拡声器等により自発的な退去を促し、もしこれに応じないときは、階段の手すりにしがみつき、あるいはたがいに腕を組む等して居すわつている者に対し、手や腕を取つてこれをほどき、身体に手をかけて引き、あるいは押し、必要な場合にはこれをかかえ上げる等して階段から引きおろし、これが実効を収めるために必要な限度で階段下から適当な場所まで腕をとつて連行する等の行為をもなしうるものと解すべきであり、また、このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。
 このような法令解釈のもとに本件の状況を見るに、原判決の認める前記事実によれば、鉄道公安職員らは、再三にわたつて労働組合員らの退去を促し、退去の機会を与えたが、これに応じなかつたため、やむなく、労働組合員らの手を取り、引張る等、実力を用いて排除にかかつたというのであり、さらに、記録によれば、被告人らが前記のように二回にわたる実力行使の際に鉄道公安職員らに対しバケツで水を浴びせかけたのは、単に数杯の水を浴びせかけたというものではなく、原判決も一部認めているように、寒夜それぞれ数十杯の水を浴びせかけ、そのため鉄道公安職員らのほとんどが着衣を濡らし、中には下着まで浸みとおつて寒さのため身ぶるいしながら職務に従事した者もあり、ことに第二回の投水の際には石炭がらや尿を混じた汚水な浴びせかけたというものであつたこと、また、右排除行動にあたつて負傷者が出たのは単に原判決の認めるような労働組合側の者だけではなく、労働組合員らの抵抗等により鉄道公安職員側にも負傷者が出たことがうかがわれるのである。
 右のような諸点その他記録からうかがわれるところに徴すれば、鉄道公安職員らの本件実力行使は必要最少限度の範囲内にあつたものと認める余地があり、もしそのように認められるとすれば、鉄道公安職員らの排除行為は、適法な職務の執行であり、これを妨げるため二階信号所から鉄道公安職員らに対しバケツで水を浴びせかけた被告人らの所為は、公務執行妨害罪を構成するものと解されるのである。」

 

と、判示しています。

 

 

したがって、上記記述は、誤りです。