刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 587

乙:今日の問題は、プレからで、4問あります。

イ.土地の賃借人を相続し,この土地の占有権を取得した者は,例え被相続人の占有が自主占有であると過失なく信じた場合であっても,短期取得時効によりこの土地を取得することはできない。
ウ.他人の不動産を自己の所有と過失なく信じたAが死亡してBがAを相続し,さらにCがBを相続した場合,その不動産が他人の所有であることをC自身が知っていても,A・B・Cの占有を通算して10年を超えれば,Cは,短期取得時効を主張することができる。
エ.占有者が賃借権に基づき占有を取得した事実や外形的客観的に占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったと解される事情が証明されれば,20年以上占有が継続したとしても,時効取得は認められない。
オ.農地法第5条により都道府県知事若しくは農業委員会の許可がなければ所有権が移転しない転用目的の農地売買の場合には,例え買主が代金を支払って引渡しを受け,買い受けた農地の占有を続けても,許可手続がとられていない以上,その農地を時効により取得することはできない。


甲先生、よろしくお願いします!

こ、甲先生!?

甲:も?

乙:イについて、民法185条は

「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。」

と、規定しています。

最判昭和46年11月30日は

「訴外Dは、かねて兄である被上告人から、その所有の本件土地建物の管理を委託されたため、本件建物の南半分に居住し、本件土地および本件建物の北半分の賃料を受領していたところ、同訴外人は昭和二四年六月一五日死亡し、上告人らが相続人となり、その後も、同訴外人の妻上告人A1において本件建物の南半分に居住するとともに、本件土地および本件建物の北半分の賃料を受領してこれを取得しており、被上告人もこの事実を了知していたというのである。しかも、上告人A2および同A3が、右訴外人死亡当時それぞれ六才および四才の幼女にすぎず、上告人A1はその母であり親権者であつて、上告人A2および同A3も上告人A1とともに本件建物の南半分に居住していたことは当事者間に争いがない。
以上の事実関係のもとにおいては、上告人らは、右訴外人の死亡により、本件土地建物に対する同人の占有を相続により承継したばかりでなく、新たに本件土地建物を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものというべく、したがつて、かりに上告人らに所有の意思があるとみられる場合においては、上告人らは、右訴外人の死亡後民法一八五条にいう「新権原ニ因リ」本件土地建物の自主占有をするに至つた」

と、判示しています。

ウについて、民法187条1項は

「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。」

と、規定しています。

最判昭和53年3月6日は

「一〇年の取得時効の要件としての占有者の善意・無過失の存否については占有開始の時点においてこれを判定すべきものとする民法一六二条二項の規定は、時効期間を通じて占有主体に変更がなく同一人により継続された占有が主張される場合について適用されるだけではなく、占有主体に変更があつて承継された二個以上の占有が併せて主張される場合についてもまた適用されるものであり、後の場合にはその主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点においてこれを判定すれば足りる」

と、判示しています。


エについて、民法186条1項は

「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」

と、規定しています。

最判昭和58年3月24日は

「民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有にあたることについての立証責任を負うのであるが(最高裁昭和五四年(オ)第一九号同年七月三一日第三小法廷判決・裁判集民事一二七号三一七頁参照)、右の所有の意思は、占有者の内心の意思によつてではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八日第一小法廷判決・裁判集民事九九号三七五頁、最高裁昭和四五年(オ)第二六五号同四七年九月八日第二小法廷判決・民集二六巻七号一三四八頁参照)、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思を否定し、時効による所有権取得の主張を排斥しなければならない」

と、判示しています。


オについて、民法162条は

「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」

と、規定しています。

最判平成13年10月26日は

「農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い当該農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって同農地の占有を始めたものと解するのが相当である。」

と、判示しています。


したがって、上記記述は、イとオが誤りで、ウとエが正しいです。