刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 1803

乙:今日の問題は、予備試験平成24年憲法第2問イとウです。

国会議員の娘の離婚記事の出版差止めを認めた仮処分の保全異議に対する決定(東京地方裁判所平成16年3月19日決定,判例時報1865号18頁)と,その抗告審決定(東京高等裁判所平成16年3月31日決定,判例時報1865号12頁)との異同に関する(中略)
イ.両決定は,記事内容の公共性について判断を異にした。抗告審は,婚姻や離婚という出来事自体は私事であるが,娘は政治家一家の長女であって後継者となる可能性があることを理由に,記事内容の公共性を認めた。
ウ.両決定は,損害の程度の評価をめぐって判断を異にした。抗告審は,本件記事で取り上げられた私事自体は人格に対する評価に常につながるものではないし,日常的にどうということなく見聞する情報の一つにすぎない,と判断した。

甲先生、よろしくお願いします!
こ、甲先生!?


甲:Might go broke but that's unlike me

出典:https://genius.com/Sons-of-kemet-hustle-lyrics

感想:アルクによると、go brokeで破産するという意味です。


乙:イについて、東京地決平成16年3月19日は

「本件においては、債権者らは公務員ないし公職選挙の候補者ではなく、過去においてその立場にあったものでもなく、これに準ずる立場にある者というべき理由もないから、債権者らの私事に関する事柄が「公共の利害に関する事項」に当たるとはいえない。」

東京高決平成16年3月31日は

「確かに、両親・祖父といった最も近い身分関係にある者を高名な政治家として持つ者は、そうではない境遇の者の場合と比べて、将来、政治家を志すかもしれない確率が高いと考える余地もあり得るであろう。しかし、その者が自ら将来における政治家志望等の意向を表明していたり、あるいはそのような意図ないし希望をうかがわせるに足りる事情が存する場合は格別、そうでない時点においては、その者が、将来、政治活動の世界に入るというのは、単なる憶測による抽象的可能性にすぎない。このような抽象的可能性があることをもって、直ちに、公共性の根拠とすることは相当とはいえない。しかも、本件記事の内容が、婚姻・離婚という、それ自体は政治とは何らの関係もない全くの私事であることをも考えると、本件記事をもって「公共の利害に関する事項に係るもの」と解することはできない。
 また、疎明資料によれば、AR松子衆議院議員が、議員となる前の、AR元首相の首相時代などに、同首相の外国出張に同行するなどしているところ、相手方ARも、AR松子衆議院議員が科学技術庁長官として外国出張するのに同行したり、新潟県に建設された「AR梅夫記念館」の仮オープンの式典に同衆議院議員と共に出席していること、同衆議院議員の選挙運動に参加していること、同衆議院議員が「自分の後継者は娘二人である」と明言したと述べる人がいること等の事実が一応認められるけれども、こういった相手方ARの行動は、将来政治の世界に入ることを意識してのものというよりは、家族ゆえのこととも考えられるところであり、以上のような事実があるからといって、同相手方をAR松子衆議院議員あるいはAR竹夫参議院議員の後継者視して、同相手方の婚姻・離婚を「公共の利害に関する事項に係るもの」とみるのは相当とはいえないというべきである。」

と、判示しています。


ウについて、東京地決平成16年3月19日は

「本件記事は、〔1〕「公共の利害に関する事項」に係るものとはいえず、かつ、〔2〕「専ら公益を図る目的のものでないこと」が明白であり、かつ、〔3〕債権者らが「重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある」ということができるから、いずれの観点からしても、事前差止めの要件は充足されているということができる。」

東京高決平成16年3月31日は

「離婚は、前記のように、当事者にとって、喧伝されることを好まない場合が多いとしても、それ自体は、当事者の人格に対する非難など、人格に対する評価に常につながるものではないし、もとより社会制度上是認されている事象であって、日常生活上、人はどうということもなく耳にし、目にする情報の一つにすぎない。
表現の自由は、民主主義体制の存立と健全な発展のために必要な、憲法上最も尊重されなければならない権利である。出版物の事前差止めは、この表現の自由に対する重大な制約であり,これを認めるには慎重な上にも慎重な対応が要求されるべきである。

 このように考えると、本件記事は、相手方らのプライバシーの権利を侵害するものであるが、当該プライバシーの内容・程度にかんがみると、本件記事によって、その事前差止めを認めなければならないほど、相手方らに、「重大な著しく回復困難な損害を被らせるおそれがある」とまでいうことはできないと考えるのが相当である。」

と、判示しています。


したがって、上記記述は、イが誤りで、ウが正しいです。