刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 488

乙:今日は、皆既月食です。

今日の問題は、4問あります。

AがBに対してA所有の甲土地を売る契約を結び,Bが登記名義人となったが,Bの債務不履行を理由にAがこの売買契約を解除した。一方,BはCに甲土地を転売した。債務不履行を理由とする解除により契約が遡及的に消滅するとする考え方を直接効果説,将来に向かって失効するにすぎないとする考え方を間接効果説と呼ぶとして,(中略)
イ. 直接効果説によると,Cが解除後に登場した場合,AとCは対抗関係に立つから,Cは登記をしなければAに対抗することができず,Bに登記名義が残っていれば,Aが優先する。
ウ. AがBとの契約を債務不履行による解除ではなく合意解除した場合,どちらの説に立っても, Aは,登記名義を得なければ,甲土地の所有権の復帰をCに対抗することができず,この結論は,Cの登場時期が解除の前後のいずれであっても同じである。
エ. 間接効果説によると,解除の前後を問わず,AとCは対抗関係に立ち,民法第545条第1項ただし書は注意規定としての意味しかない。
オ. 解除前に登場し登記をしたCが,Bとの間の売買契約締結時にBの債務不履行を知っていた場合,間接効果説では,原則としてCが優先するが,直接効果説では,逆にAが優先する。
(中略)
(参照条文)民法
第545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
2,3 (略)



甲先生、よろしくお願いします!

こ、甲先生!?

甲:ぶるーむーんなの。。

乙:イについて、民法177条は

「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」

と、規定しています。


大判昭和14年7月7日は

「不動産ヲ目的トスル売買契約ニ基キ買主ニ対シ所有権移転ノ登記ヲ為シタル後ニ於テ該売買契約カ解除セラレテ不動産所有権カ売主ニ復帰シタル場合ニ於テモ売主カ其ノ所有権取得ノ登記ヲ為スニ非サレハ該解除後ニ買主ヨリ不動産所有権ヲ取得シタル第三者ニ対シ売主ハ其ノ所有権ノ取得ヲ以テ対抗スルコトヲ得サルモノト解スルヲ相当トス蓋シ売買契約ノ解除ニ因リ所有権カ売主ニ復帰スル場合ニ於テモ所有権ノ移転存スルヲ以テ民法第百七十七条ヲ適用スヘキモノナレハナリ本件ニ付之ヲ観ルニ原判文其ノ意ヲ尽ササル嫌ナキニ非サルモ原判文ノ全趣旨ニ依リ原審ハ上告人カ訴外大竹八十一ニ対シ本件不動産ニ付売買ニ因ル所有権移転登記ヲ為シタル後売買契約ヲ解除シ之カ所有権取得ノ登記ヲ為ササル間ニ被上告人ニ於テ同訴外人ヨリ本件不動産ヲ買受ケ其ノ所有権取得ノ登記ヲ了シタルモノト認定シタルモノナルコトヲ看取シ得ルモノトス然ラハ被上告人カ民法第百七十七条ニ所謂第三者ニ該当スルヲ以テ上告人ニ於テ売買契約解除ニ因ル所有権ノ取得ヲ以テ被上告人ニ対抗シ得サルモノト為スヘキモノナ」リ

と、判示しています。

「解除の効果は契約がなかった状態に戻すことであって,契約の遡及的無効をもたらすものである,という理解は,現在の判例・通説が採用している」

内田貴『民法Ⅱ 第2版 債権各論』101頁

ウのCの登場時期が解除の前の場合について、最判昭和33年6月14日は

「昭和二〇年一〇月九日上告人A1は自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人A2に売り渡し、上告人A2は同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除された(中略)いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない。」


ウのCの登場時期が解除の後の場合について、大判明治42年10月22日は

「民法第五百四十五条ハ一般契約解除ノ効力ヲ規定シタルモノニシテ民法第百七十七条ノ例外ヲ規定シタルモノニアラス要スルニ不動産ニ関スル物権ノ得喪変更ハ当事者間ニ於テハ意思表示ノミニ依リ其効力ヲ生スト雖モ第三者ニ対シテ其効力ヲ有セシムルニハ必ラス之カ登記ヲ為ササルヘカラス其登記ナキ以上ハ第三者ハ其得喪変更ナキモノト看做シ前権利者トノ間ニ有効ニ得喪変更ノ意思表示ヲ為シ得ルモノトス今本件ニ付キ原院ノ認メタル事実ハ被告亀次郎ハ其長男亀信名義ヲ以テ山岸一秀ヨリ其所有ニ係ル富山県氷見郡氷見町大字氷見外畑字沢田八十八番ノ一九十番合併郡村宅地一反二歩ニ建設シアル木造板葺二階建一棟ヲ買受ケ其移転登記ノ後合意ノ上右売買契約ヲ解除シタルモ未タ登記簿上亀信ノ所有名義タルヲ奇貨トシ亀信ノ親権者トシテ同家屋ヲ抵当ニ供シ其登記ヲ経金五百円ヲ煙菊次郎ヨリ借受ケタリト云フニ在ルヲ以テ煙菊次郎ハ本件家屋売買解除ノ結果カ未タ登記セラレサル前登記簿上ノ所有名義者タル矢後亀信ノ親権者タル被告トノ間ニ本件抵当権設定ノ意思表示ヲ為シ之ヲ登記シタルモノナルヲ以テ事実右家屋ノ所有権ハ契約解除ノ結果山岸一秀ニ帰属セルモノナルニ拘ハラス菊次郎ハ法律上適法ニ抵当権ヲ取得シ之ヲ真正ノ所有者タル山岸一秀ニ対抗シ得ルモノナルヲ以テ本件被告ノ行為ニ依リ同人ハ何等法律上損害ヲ受クヘキモノニアラス従テ被告ハ抵当権ノ設定ニ関シ同人ヲ欺罔シタルコトナキニ帰着スルカ故ニ被告カ本件家屋ヲ抵当ニ供シ煙菊次郎ヨリ金五百円ヲ受領シタルハ刑法上詐欺取財ヲ以テ論スヘキモノニアラス」

と、判示しています。

エについて

「間接効果説でも,第三者が解除によって直接影響をうけないのは当然であり,解除の前後をとわず第三者の問題は対抗問題として処理される」

山下末人『新版 注釈民法(13) 債権(4)〔補訂版〕』884頁

「「間接効果説」(中略)によれば,第三者保護規定(§545Ⅰ但)は必要ないことになる(遡及効を認めたときに、はじめて第三者が害されるという問題を生じる)。」

第2版追補版『我妻・有泉コンメンタール民法ー総則・物権・債権ー』1025頁

オの間接効果説については、エで述べたとおり、AとCが対抗関係に立つので、先に登記をしたCが優先します(177条)。

オの直接効果説については、

「解除前の第三者に対しては,原状回復義務を理由としてもその権利を害することができない(545条1項但書)。解除原因を知っている第三者もこれによって保護される。間接効果説では当然の規定であり,直接効果説では第三者との関係で遡及効を制限したものと解されることになる。」


磯村保『民法Ⅳ 債権各論〔第3版補訂〕有斐閣Sシリーズ』50頁


したがって、上記記述は、ウとエが正しく、イとオが誤りです。