乙:甲先生の秘宝って、何でしょうか。
今日の問題は
甲は,道路を通行中,飼い主乙の不注意により乙のもとから逃げ出した犬に足首付近をかみつかれそうになった。このような状況における甲の行為に関する同人の罪責について(中略)(ただし,甲には,各記述に記載された犯罪の故意があるものとする。)。(中略)
甲は,逃げ場がなかったことから,犬を足で蹴ったが,更に犬が甲の足首付近にかみつこうとしたので,近くにいたBを突き飛ばして身をかわしたところ,それによりBは転倒して頭部を強打したため,脳内出血により死亡した。甲に傷害致死罪は成立しない。
甲先生、よろしくお願いします!
こ、甲先生!?
甲:
乙:刑法36条1項は
「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」
と、規定しています。
「正当防衛として許容されるのは,侵害者の法益を侵害する場合に限られる。侵害者以外の第三者の法益を侵害した場合には,正当防衛としては許容されない」
山口厚『刑法』69頁
同法37条1項本文は
「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。」
と、規定しています。
「緊急避難においては,避難行為を行った結果として,「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」ことが要求されている。(中略)緊急避難においては,結果としての,事後的な害の均衡が要求されているのである。これは,緊急避難が実質的な違法性阻却原理としての法益較量(同等利益・優越的利益の保護)に基づく違法性阻却事由であることによる。なぜなら,現在の危難と無関係の他人に侵害を転嫁することを許容する緊急避難においては,全体としての法益保全がその根拠であり,結果的に害の均衡が守られていない場合には,全体として法益保全が実現しておらず,違法性阻却を肯定することはできないからである。」
山口厚『刑法』79-80頁
したがって、上記記述は、誤りです。