刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 1284

乙:I live my life as a humble man


出典:Gentleman – Children of Tomorrow Lyrics | Genius Lyrics


感想:eat crowという言葉もあります。


今日の問題は、新司法試験平成22年民事系第54問イとウです。


約束手形の偽造及び変造に関する(中略)

イ.偽造手形が振り出された場合,受取人が偽造者に本人名義で手形を振り出す権限があると信じるにつき正当な理由がなくても,受取人から当該手形の裏書譲渡を受けた第三者が,偽造者にこのような権限があると信じるにつき正当な理由があれば,当該第三者は,本人に手形債務の請求をすることができる。

ウ.約束手形が偽造されたことを知ってこれを取得した手形所持人に対しては,偽造者は,手形上の責任を負わない。


甲先生、よろしくお願いします!


甲:イについて、最判昭和43年12月24日

民集第22巻13号3382頁


 本人から手形振出の権限を付与されていない他人が、手形上に自己の名義を表示することなく、直接に本人名義の署名または記名捺印を手形上にあらわす方式(いわゆる機関方式)により手形を振り出した場合に、第三者において右他人が本人名義で手形を振り出す権限があると信ずるについて正当な理由があるときは、本人は、右他人のなした手形振出についてその責に任ずべきものと解するのが相当である。けだし、前記の場合、機関方式による手形振出は、その形式においては、本人から手形振出の権限を付与されていない他人が本人の代理人としての資格を表示して自ら署名または記名捺印をする方式(いわゆる代理方式)による手形振出とは異なるけれども、右はいずれも無権限者による本人名義の手形振出である点において差異はないところ、無権限者によりいわゆる代理方式による手形振出がなされた場合には表見代理に関する規定の適用を肯定すべきものであるから、第三者の信頼を保護しようとする表見代理の制度の趣旨から実質的に考察すれば、無権限者が機関方式により手形を振り出して本人名義の手形を偽造した場合においても、右表見代理に関する規定を類推適用し、代理方式による手形行為が無権限者によりなされた場合と同様の法律関係の成立を肯定するのが相当であるからである。

 ところで、原審の確定するところによれば、訴外Dは、上告人Aから本件手形振出の権限を付与されていないのに、本件手形の振出人欄に直接に同上告人の名義を記載して本件手形を偽造したが、右は原判示の経緯により訴外Dが上告人Aから付与された訴外E信用金庫に対する手形振出等の代理権の範囲を越えてしたものであり、かつ、被上告人は同訴外人に上告人A名義で本件手形を振り出す権限があると信ずるについて正当な理由があつたというのであつて、原審の挙示する証拠によれば、原審の右認定はこれを是認することができる。そして、手形偽造の場合においても表見代理に関する規定の類推適用があると解すべきことは前記のとおりであるから、原審の認定した右の事実関係のもとにおいては、上告人Aは、民法一一〇条の類推適用により、本件手形について振出人としての責に任ずべきであると解するのが相当である。


と、判示しています。



ウについて、最判昭和55年9月5日は


偽造手形を振り出した者は、手形法八条の類推適用により手形上の責任を負うべきものであることは、当裁判所の判例とするところであるが(最高裁昭和四三年(オ)第九四二号同四九年六月二八日第二小法廷判決・民集二八巻五号六五五頁)、その趣旨は、善意の手形所持人を保護し、取引の安全に資するためにほかならないものであるから、手形が偽造されたものであることを知つてこれを取得した所持人に対しては、手形法八条の規定を類推適用する余地なく、手形偽造者は、右所持人に対して手形上の責任を負わないものと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、被上告人は、Dに無断でみずから同人の印章を押捺しあるいは他人をして押捺せしめて所論の約束手形を振り出したものであるが、上告人は、被上告人がDに無断で右約束手形を振り出すことを知つてこれを取得したというのであるから、右事実関係のもとで、被上告人が上告人に対して右約束手形につき手形上の責任を負うべきいわれはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和三二年(オ)第九二六号同三三年三月二〇日第一小法廷判決・民集一二巻四号五八三頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。


と、判示しています。



したがって、上記記述は、イが誤りで、ウが正しいです。