刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 1117

乙:Forty days and forty nights

I waited for a girl like you

 

出典:Fitz and The Tantrums – Out of My League Lyrics | Genius Lyrics

 

感想:forty yearsと読み間違えた。

 

 

今日の問題は、3問で、司法試験平成20年刑事系第18問イウエです。

 

イ. 甲が,自己が所有し,登記簿上も自己が所有権者となっている土地を乙に売却し,その売買代金の受領を終え,当該土地の所有権が乙に移転した後,乙がその移転登記を完了する前に,甲が,事情を知った丙に当該土地を売却し,丙がその移転登記を完了した場合には,丙が当該土地の所有権の取得を乙に対抗できるか否かにかかわらず,甲には横領罪が成立する。
ウ. 甲は,19歳の乙と同人所有の絵画の売買契約を締結し当該絵画の引渡しを受けたが,乙が親権者の同意がないことを理由に同契約を取り消した。甲はこれを知りながら,乙に無断で当該絵画を丙に売却して丙に引き渡した場合,甲乙間の売買契約が初めから無効であったものとみなされるため,甲と乙の間に委託信任関係は存在しないこととなるから,甲には横領罪は成立しない。
エ. 甲が,不在中の自宅に誤って配達された他人あての贈答品の高級食材を食べてしまった場合,甲の当該食材に対する占有は委託信任関係に基づくものではないので,甲には横領罪は成立しない。

 

 甲先生、よろしくお願いします!

 

甲:イについて、大判明治44年2月3日は

 

「不動産ノ所有權カ賣買ニ因リ買主ニ移轉シタルニ拘ハラス登記簿上其所有名義ノ依然トシテ賣主ニ在ルトキハ該不動産ハ賣主ニ於テ有效ニ處分シ得ヘキ状態ニ在ルモノナルヲ以テ刑法上ノ觀念ニ於テハ此場合ニ賣主ハ他人ノ不動産ヲ占有スルモノトス是レ從來本院ノ判例トシテ認ムル所ナリ左レハ原判決ニ被告ハ丸山みとカ黒澤吾作ニ賣渡シタル畑一筆カ賣買登記漏ニテ依然みとノ所有名義ニナリ居ルコトヲ發見シタルヲ奇貨トシ之ヲ他ニ賣却シテ横領センコトヲみとト共謀シ黒澤正太郎ナル者ニ賣却シテ其登記ヲ經由シタルモノトシ右畑一筆カ登記簿上依然賣主みとノ所有名義ニナリ居ル事實ヲ判示シタル以上ハ其みとノ占有中ナルコトヲ判示シタルモノニ外ナラサルヲ以テ論旨ハ理由ナシ」

 

最大判昭和24年6月29日は

 

 「按ずるに横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除してほしいまま
にこれを処分すれば、それによつて成立するものであることは明らかであり、必ず
しも自分の所有となし、もしくは自分が利益を得ることを要しない。第二審判決に
おいて認定した事実によれば、被告人は茨城県真壁郡a村村農会会長在任中、業務
上保管中の国所有の玄米百四十四俵及びA営団所有の玄米三百十二俵を、正規の手
続を経ないでほしいままに之れを特配名義の下に売渡したというのであるから、横
領罪を構成することは疑いない。論旨は、判示玄米は被告人の所有物として個人的
に売買したものでないと主張する。しかし原判決は「被告人は本来為し得る行為に
ついて単に其履行を誤つたものではなくして正規の手続を経て権限を授与されるこ
となくして為すべからざる行為をなしたものである、換言すれば被告人は単に玄米
特配の履行手続を誤つたものではなくして玄米特配の外形を借りて実は玄米を個人
的に売却したのである。」と説示しているが、第二審判決の認定した事実に対する
判断としては正当であつて何等違法は認められない。論旨は更に、本件の所謂特配
は、被告人居村住民の窮迫した食糧不足を救済し、農村の食糧増産義務履行を完遂
せしめ、併せて農村一揆等の起るのを防止する為め実行したもので、玄米売渡代金
は一銭も私しない全く公益性公共性を有するから、刑法領得罪を構成するものでは
ないに拘わらず、被告人に対し有罪を宣告したことは憲法に違反すると主張する。
しかし、すでに説明した通り、他人の物を保管する者が他人の権利を排除してほし
いままに之れを処分すれば、横領罪は成立するのであるから、判示玄米を処分したことは村民救済の為であるとしても、犯罪の成立をさまたげるものではなく、また
処分によつて得た金銭は一銭も私しないとしても、横領罪が成立することは前段の
説明によつて明らかである。」

 

 と、判示しています。

 

 

ウについて、札幌高判昭和30年11月17日は

 

 「島田豊次郎は昭和二十四年四月三十日被告人との間に島田所有にかかる(登記簿上窪田イシ名義)旭川市千六百八十七番地所在木造亜鉛鍍金銅板葺二階建店舗一棟建坪二十五坪二階坪八坪(その後旭川市一条通三丁目千六百八十七番地所在木造亜鉛メツキ銅板ぶき二階建店舗一棟建坪二十五坪二階坪八坪と更正)を(一)代金は四十万円(二)支払方法は契約と同時に被告人より島田に金額四十万円の約束手形を差入れること(三)右(二)の条項を履行したときは島田は被告人に対し何時にても同建物につき同人名義に所有権移転登記手続をなすこと(四)島田は同年六月二十一日までに右建物内の居住者等を立退かせてこれを引渡すことの約定を以て売買契約を締結し、被告人は右契約と同時に島田に対し同日附の被告人及び岡本好司共同振出名義の金額四十万円、支払期日同年六月二十一日なる約束手形一通を差入れ本件建物の所有権を取得し、次で同年五月六日同建物につき被告人名義に所有権移転登記手続(中間登記手続を省略し窪田イシより被告人名義に登記)を完了したこと。しかるに、同建物内の居住者等が期限内に立退かず(四)の条項が履行されなかつたところより、被告人は右約束手形金を支払うことができなかつたため同年六月二十二日島田豊次郎に対し、前記売買契約解除の意思表示をなし島田名義にその所有権移転登記手続に必要な権利書、委任状及び印鑑証明書を送付したところ、島田はその頃これを承諾して同書類をも受領し茲に同売買契約は合意解除され、その結果前記建物の所有権は原状回復により島田豊次郎に復帰したこと。それにもかかわらず、被告人はその所有権移転登記手続未了なるを奇貨としてその後昭和二十八年六月三日旭川市二条通三丁目右五号大洋産業株式会社において同社より金二十万円を借受けるに際し擅に前記建物上に抵当権を設定し以てこれを横領したことを優に認定できる。従つて本件公訴事実はその証明十分であるといわなければならない。」

 

と、判示しています。

 

 

エについて

 

「自己が占有する他人の物でも,たとえば誤配達された郵便物(大判大正6・10・15刑録23輯1113頁)など,その占有が委託に基づかない場合,遺失物横領罪が成立するにとどまる。」

 

山口厚『刑法』328頁

 

 

したがって、上記記述は、イとエが正しく、ウが誤りです。