刑事裁判の歴史と展望あれこれ💖

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しほうちゃれんじ 1640

乙:今日の問題は、新司法試験平成19年民事系第6問ウエオです。

ウ. 債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効は,本来の債務の履行を請求することができる
時から進行する。
エ. 割賦払債務について,債務者が割賦金の支払を怠ったときは債権者の請求により直ちに残債
務全額を弁済すべき旨の約定がある場合には,債務者が割賦金の支払を怠った時から,残債務
全額についての消滅時効が進行する。
オ. 留置権者が留置物の占有を継続している間であっても,その被担保債権についての消滅時効
は進行する。

甲先生、よろしくお願いします!
こ、甲先生!?


甲:I'll crash and burn on purpose
cause you're boring

出典:https://youtu.be/ZwqoA1vb76U

感想:I'm boring.は、私は退屈な人間です。という意味になるので要注意だそうです。


乙:ウについて、最判平成10年4月24日は

「契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は、本来の履行請求権の拡張ないし内容の変更であって、本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができるから、債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始するものと解するのが相当である(大審院大正八年(オ)第五八五号同年一〇月二九日判決・民録二五輯一八五四頁、最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)。
 これを本件についてみるのに、前記事実関係の下においては、上告人が本件土地を高見に売却してその旨の所有権移転登記を経由したことにより、本件契約に基づく上告人の売主としての義務は、上告人の責めに帰すべき事由に基づき履行不能となったのであるが、これによって生じた損害賠償請求権の消滅時効は、所有権移転許可申請義務の履行を請求し得る時、すなわち、本件契約締結時からその進行を開始するのであり、また、上告人が平成五年一月二五日ころにした消滅時効の援用は、本来の履行請求権とこれに代わる損害賠償請求権との法的同一性にかんがみれば、右損害賠償請求権についての消滅時効を援用する趣旨のものと解し得るものである。そうすると、右損害賠償請求権は、格別の事情がなければ、上告人の右時効の援用によって消滅することとなるはずのものである。」

と、判示しています。


エについて、最判昭和42年6月23日は

「割賦金弁済契約において、割賦払の約定に違反したときは債務者は債権者の請求により償還期限にかかわらず直ちに残債務全額を弁済すべき旨の約定が存する場合には、一回の不履行があつても、各割賦金額につき約定弁済期の到来毎に順次消滅時効が進行し、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をした場合にかぎり、その時から右全額について消滅時効が進行するものと解すべきである(昭和一四年(オ)第六二五号同一五年三月一三日大審院民事連合部判決・民集一九巻五四四頁参照)。
そして、原審の確定したところによれば、右第四回割賦金一万八七四四円の弁済期は昭和二九年三月三一日であつたところ,被上告人がはじめて残債務額の請求をしたのは昭和三四年七月八日であつたというのであるから、その間五年以上を経過していることが明らかであり、しかも、本件割賦金債務は訴外益田宝明の商行為によつて生じた債務にあたるというのであるから、連帯債務者たる上告人についても商法が適用され、上告人自身の第四回割賦金債務も商事債務として右五年の経過とともに時効完成によつて消滅したものというべきである。しかるに、原審は、右第四回の割賦金債務が依然として存在するものと判断して、これにつき被上告人の請求を認容しているのであるから、この点において原判決は違法であつて破棄を免れず、論旨は理由がある。しかし、第五回すなわち昭和二九年九月三〇日支払分以降の各割賦金については、原審の確定した事実関係によつても、被上告人の右全額請求の時までいまだ五年を経過していないことが明らかであるから、原審がこれにつき消滅時効の完成を認めなかつたのは当然であつて、論旨は理由がない。
 したがつて、右第四回割賦金額およびこれに対する昭和二九年四月一日から支払ずみに至るまで年一割の割合による金員の支払を求める部分については、原判決を破棄し、第一審判決を取り消すべく、かつ、右部分については、叙上事実関係によつても、被上告人の請求の理由のないことが明らかであるから、右部分につき被上告人の請求を棄却し、その余の部分については、上告を棄却すべきものである。」

と、判示しています。


オについて、民法300条は

「留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。」

同法150条1項は

「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」

と、規定しています。

最大判昭和38年10月30日は

「民法三〇〇条は「留置権ノ行使ハ債権ノ消滅時効ノ進行ヲ妨ケス」と規定する。その趣旨は、留置権によつて目的物を留置するだけでは、留置権の行使に止り、被担保債権の行使ではないから、被担保債権の消滅時効の中断、停止の効力を生ずるものでないことを規定したものと解するのを相当とする。従つて、単に留置物を占有するに止らず、留置権に基づいて被担保債権の債務者に対して目的物の引渡を拒絶するに当り、被担保債権の存在を主張し、これが権利の主張をなす意思が明らかである場合には、留置権行使と別個なものとしての被担保債権行使ありとして民法一四七条一号の時効中断の事由があるものと認めても、前記三〇〇条に反するものとはなし得ない。
 そして、訴訟において留置権の抗弁を提出する場合には、留置権の発生、存続の要件として被担保債権の存在を主張することが必要であり、裁判所は被担保債権の存否につき審理判断をなし、これを肯定するときは、被担保債権の履行と引換に目的物の引渡をなすべき旨を命ずるのであるから、かかる抗弁中には被担保債権の履行さるべきものであることの権利主張の意思が表示されているものということができる。従つて、被担保債権の債務者を相手方とする訴訟における留置権の抗弁は被担保債権につき消滅時効の中断の効力があるものと解するのが相当である。固より訴訟上の留置権の主張は反訴の提起ではなく、単なる抗弁に過ぎないのであり、訴訟物である目的物の引渡請求権と留置権の原因である被担保債権とは全く別個な権利なのであるから、目的物の引渡を求むる訴訟において、留置権の抗弁を提出し、その理由として被担保債権の存在を主張したからといつて、積極的に被担保債権について訴の提起に準ずる効力があるものということはできない。従つて、原判決が本件の留置権の主張に訴の提起に準ずる時効中断の事由があると判断したことは、法令の解釈を誤つたものといわなければならない。
 しかし、訴訟上の留置権の抗弁は、これを撤回しない限り、当該訴訟の係属中継続して目的物の引渡を拒否する効力を有するものであり、従つて、該訴訟が被担保債権の債務者を相手方とするものである場合においては、右抗弁における被担保債権についての権利主張も継続してなされているものといい得べく、時効中断の効力も訴訟係属中存続するものと解すべきである。そして、当該訴訟の終結後六ケ月内に他の強力な中断事由に訴えれば、時効中断の効力は維持されるものと解する。然らば、本件留置権の主張は裁判上の請求としての時効中断の効力は有しないが、訴訟係属中継続して時効中断の効力を有するものであるから、本件につき被担保債権の時効は完成しないとして、留置権の存続を肯定した原判決の判断は、結局これを正当として是認し得るものというべきである。」

と、判示しています。


したがって、上記記述は、ウとオが正しく、エが誤りです。